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2011
03.07

クルザスの亜麻。

 キャンプ・エバーレイクスからキャンプ・ドラゴンヘッドまではまっすぐ北に進めばいいだけの簡単な道のりだとフィルミアン隊長は教えてくれたけれど、それは絶対嘘だ。なぜなら今目の前に見たことがない大きな羽虫のようなモンスターが3匹もいて、わたしの行く手を遮っているからだ。全然簡単な道のりなんかじゃないじゃないと、キャンプまで引き返して隊長に文句を言うと、ジャッキヤが大笑いをした。モードゥナを抜けてきたのにあそこを抜けられないのは如何なものかということらしいけれど、ただの一度も戦闘をせずにモンスターに気付かれないように走り抜けてきたのだから、あんな狭い谷の底を通る道をいかにもアクティブっぽいモンスターが塞いでいたのではわたしは為す術がない。格闘ホラと槍術は少しだけかじっていたし最低限のケアルくらいは使えるけれど、わたしが相手にできるのはせいぜいドードーくらいなもの。あんなわたしの背丈ほどもある巨大な蠅なんか、見るのも嫌だ。
「仕方ないな、退治しに行ってやろうか。美味しいお茶のお礼だよ」
 ジャッキヤはそう言って杖を取った。彼女はウィザードが本職と言っていた。最近はもっぱら立ち寄る冒険者にケアルをかけてやることくらいしかしないそうだけれど、最近とんと幻術には縁のないわたしが見ても判る、その杖は最高ランクのウィザードじゃないとまず扱えない高級杖だ。
「大きな蠅といえばナットの仲間だろうな。ザナラーンにもいるだろう? 何にせよジャッキヤに任せておけば安心だから、谷を抜けるまで彼女に護衛してもらうといい」
 ホーバージョンとチェーンコイフに身を包んだ隊長が留守番で、サンシルクでも見たことがないフリルコーティーのジャッキヤが護衛役。逆だろうと思うのだけれど、飛行系の敵に飛び道具がない隊長が向かっていっても何も出来ないから、と彼女は笑った。

「ウルダハで裁縫やってるってことはさぁ、サンシルク所属なんだ?」
 同時に2体のナットにファイヤの魔法を浴びせながら、彼女はそう聞いてきた。わたしは少し離れたところに生えている木の影から戦況を見守りつつ首をコクコクと縦に振る。
 彼女の魔法は強大だった。ありえないくらい強い。しかも目標を片目で見つつ、わたしと雑談しながら放つのだ。クイックサンドに出入りしているウィザードでここまで強い者はいるだろうか。
 たった2発の魔法で、2匹のナットは黒焦げになって地に落ちた。
「このコーティーはイシュガルドの服屋で買ったものだけど、サンシルクからの仕入れ品なんだって。こっちでもサンシルクのクオリティの高さは評判だからね。相当ボッタくられたよ」
 彼女は真っ黒な塊になって動かなくなったナットを杖や足でつついて安全を確認すると、わたしを呼び寄せた。もう安心だ。
「でも、ウルダハにはその型のコーティーは出回っていないわ。高級品のリネン生地コーティーは首周りがレースであしらわれているけれど、フリル付きは見たことがない。それ、すっごく良いものか、特注品だと思う。帰ったら聞いてみるよ」
 初めて見た時から気になっていた、ジャッキヤのコーティー。地はリネンか亜麻布っぽいけれど、デザインは秀逸。誰かのオリジナルかもしれない。
「戦闘に耐えられるだけの能力も持っていないとキャンプで着られないしね。オシャレ装備も探すのが大変だよ。まあ、あんなむさ苦しいキャンプでオシャレも何も無いけどさ」
 彼女はそう笑ったけれど、訪れるであろう冒険者にとって彼女は最高の癒しかもしれないと思う。
 媚びることはしないタイプだと思うし、豪放な面も見せるけれど、やはりそういう役割があると判っているからだろう。彼女の装備品は細かなところまでセンスがいい。
「さあ、谷を抜けたね。申し訳ないけれど護衛はここまでだ。ここからちょっと先に進めば街道に出るから、北に進めばキャンプ・ドラゴンヘッドが見えてくるはずさ」
 空は相変わらずの快晴だった。流れる雲の白さと降り注ぐ陽の光は、懐かしいラノシアの空に似ている。わたしと同じリンクシェルを持つギャザラーのアルヒャが、以前クルザスでの草刈りは気持ちがいいと言っていたのを思い出してなるほどなと思った。今日もいい天気だ。
「ドラゴンヘッドに着いたら、貴女に助けられたことを隊長に伝えておくわ」
「いいって。それより酒保をやってるカナゴってミコッテによろしく言っておいてよ。友達なんだ」
「わかった。伝えておくわ。ここまでありがとう」
「気をつけて。今度はひとりじゃなくて友達と一緒に来な。キャンプで歓迎するよ」
「うん、今度はみんなと来るよ」
 別れの挨拶は軽く手を振りニコリと笑う。生まれ育ったサンシーカーの村で教わった、ミコッテ式のエモートをふたりで向きあってやって、わたしたちは互いに背を向けた。

 さあ、いよいよイシュガルドだ。

 ジャッキヤに教えられたルートをたどって丘を下ると、それなりに整地された街道に出た。ここを北に進むとキャンプ・ドラゴンヘッドがあり、その先にイシュガルドのお城があるという。南に行くとグリダニアに繋がるそうだ。道の所どころからスクウィレルが顔を出してこちらを見ている。目を合わせると逃げていってしまうので、初めて見るよそ者のわたしを警戒しているのかもしれない。
 所どころから微かに伐採ポイントの気配がした。グレードは5くらいだろうか、とりあえず手頃な木にハチェットで軽く切り口を付けてみる。見た感じはどうもオークの木のようだったが、今主戦場にしているザナラーンのホライズンに生えているオークの木とは少し様子が違うような気がする。幹自体が硬いし、樹皮も肉厚のようだ。元々どっしりとした雄大な容姿を持つ樹木だけれども、この辺りの樹木はザナラーンよりも太く高い気がする。
 切り口に向かって勢い良くハチェットを振り下ろすと、ガツッという鈍い音がして刃が幹にめり込んだ。相当硬い幹だった。何度か同じ場所を切りつけたが、ハチェットが弾き返されるような強い抵抗を把手から感じ、これ以上続けると器具自体が壊れてしまうような気がして手を止めた。
 少し先に目をやると草刈り場の気配があった。近寄ってみると、ダイアーモスと一緒に亜麻が自生していた。これもオークの木のように力強い。伸ばす弦の太さが今まで刈ってきたものの倍はあるように見て取れた。折りたたみ式のサイズを展開して振ってみるも、あざ笑うかのように空振りする。弦が刃に触れている感覚はあるものの、逃げるようにスルリと抜けていく。刈り取っている気配が全くなかった。
 ただ、一度の空振りで草刈り場の気配は消えなかった。少なくとももう1回チャンスがあるということだ。深呼吸をして心を落ち着かせ、目をつぶって邪念を払う。上位グレードの伐採場では欲を張らず無心で鎌を振れって言ったのは誰だったか……吹いていたそよ風が止んだ瞬間にサイズを振った。

 ―――ザシュッ。
 亜麻の弦と花がいくつか宙を舞った。振ったサイズの柄から強烈な手応えが伝わってきて、思わず全身の毛を逆立ててしまった。そしてその瞬間、周辺から草刈り場の気配は消えた。
 わたしはサイズをたたんでカバンに仕舞い、まだかすかに残っている手応えを確認するかのように手のひらを見た。こんな感覚はラノシアで初めて草を刈った日以来かもしれない。冒険者なんだから裁縫で使うモコ草くらい刈れるようになりなさいと、半ば強制的にサイズを渡されてグレード1の草刈り場に連れて行かれたあの日も、こんないい天気だった。
 あの日、ザクザク刈れるモコ草はわたしに採集の楽しさと自然の力強さを教えてくれたけれど、今このクルザスは、わたしはまだまだだということを、徘徊するモンスターや草を食む動物たち、そして根を張る植物たちを通じて教えてくれている気がした。冒険者としての力の無さをクルザスの自然が語ってくれているのだ。
 でも、その壁の高さがどのくらいなのか全く判らないわけでもない。今のわたしが登りきれる程度の楽な壁ではないけれど、きっともう少しがんばって力を付けたならば、きっとここでも充分に活躍が出来る手応えはあった。それの証拠に、今わたしの手元には、自力で手に入れたクルザスの亜麻がある。
 わたしは弱い。でも、わたしでも強くなれるかもしれない。
 そんな今までに湧き上がったことがない自信が、初めて心の中に生まれた。

 キャンプ・ドラゴンヘッドに辿り着いたのは、夜もだいぶ更けた頃だった。


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 1. イザ、モードゥナへ!  
 2. クルザスへの道。

 前回からだいぶ時間が開いてしまいましたが、クルザス編の続きです。本当は最後まで一気に書ききったものを掲載と思っていたのですが、ちょっと長くなりそうなので字数制限に引っかかる可能性もあるので、分割することにしました。
 おそらく次回で完結です。たぶん。



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コメント
ブログがお針子仕様になってる!w
こんにちは 女優デビューしたアルヒャです(ー`)
・・・いや回想シーンのエキストラみたいなものでしょうかw

ただハエを倒し、亜麻を刈っただけのお話なのにこんなに面白いなんて!
巨匠の完結編待ってます
また登場してもいいんですようんうん
アルヒャdot 2011.03.08 09:44 | 編集
>アルヒャさん まだ完成していないのでアレですが、
とりあえず忘れた頃に前回の続きをw
アナタまた登場しますわよw

Mintondot 2011.03.08 23:05 | 編集
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