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2012
03.03

裁縫師ミントンの冒険 第5話:詠唱・ラ

【前のお話】
第1話:気分が良かったから
第2話:高原の国
第3話:クルザスの亜麻
第4話:修繕とは


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ザナラーンのマルドティというのは初めていただくが美味しいものだな」
 その日の夜はミルドスルス隊長の計らいでわたしは彼女等のテント内で一泊出来ることになった。テントに誘ってくれたお礼にと、同じテント内のミルドスルス隊長、カナゴ、幻術士のシドニアさんに、得意のマルドティを淹れている。今季の茶葉は出来がいいとサファイヤアベニューに茶屋を構えるキルーが自慢していたけれど、クルザス地方は水が美味しいと思った。同じ茶葉でも、ウルダハの水ではここまで香りを引き立てることは出来ないような気がする。
 ウルダハに借りている部屋を出てから何日かぶりの屋根のある生活。あれから何日経ったのだろう。みんなには黙って出てきちゃったから、もしかしたら心配をかけているかもしれない。でも、アルヒャだって収集の旅で1、2週間くらい平気で家を空けることもあるし、わたしが同じようなことをやっても大丈夫だよね、と自分に言い聞かせてリンクパールを取り出そうとした手を止めた。
 そう、ブルーフォグを出てから、リンクパールを一切動かしていない。もしかしたら呼び出しで光っているかもしれない。でも、あえてそうしたのは自身を追い込む冒険がしたかったからだ。冒険者として何がどこまで出来るのか、わたしはそれを知りたかった。
「隊長、ウルダハ行ったことがないんでしたっけ?」
「ああ、イシュガルドだけで充分に―
「敵襲ーー!! 敵襲ーーー!!
 突然そんな怒号が外から聞こえ、思わず肩をすくめた。敵襲?
「東よりウルフの群れーー、多数!!」
 その声に、他の三人は反射的に立ち上がった。隊長は防具と剣を掴んでテントの外に飛び出し、カナゴがランタンの火を吹いて消す。シドニアさんもあっという間にローブを着込み、ワンドを腰に挿して隊長の後を追った。
「ミントン! 戦闘はどこまで出来る?!」
 テントの外でホーバージョンを被り込みながら、隊長が聞いてくる。
「えっ… えっと、幻術を少し…
「プロテスとストンスキン出来るな? 切らさず、ここから動くな! 戦闘用の防具があれば着込め! カナゴ、お前はミントンとクラウディエンの護衛! シドニア、行くぞ!!
 まだホーバージョンの留め具も留めていないうちに、隊長は走りだした。シドニアさんがチラリとわたし達を見てウィンクする。そして隊長の後を追って走っていった。
「… 敵襲って」
「近くにイクサル族の拠点があるんだ。たまに飼い慣らしたウルフをこっちに仕向けてくるのさ。なあに、大丈夫。ドラゴンヘッド隊は強いよ」
 カナゴはそう言いながら格闘用の武器を手に填めた。使い込んでいるように見えるが、しっかりと整備されている。
「やれやれ、最近多くないかの」
 皺枯れた声と共に、クラウディエン師がテントにやってくる。カナゴが手を取って中に引き入れ、入れ替わりにテントの入口に立った。
 ここはイシュガルドの防衛基地だ。だから非常時はどういう行動を取るか、それぞれにマニュアルがあるのだろう。クラウディエン師はきっとカナゴと一緒に行動すると決められているのだと思う。
「連中もやること無くて暇なんだろう。ミントン、念のためにみんなにプロテスとストンスキンを。ちょっと敵の気配が多い気がする」
 カバンの中からようやくワンドを見つけ出して、皆にプロテスとストンスキンをかけた。

 しばらくの間、声を潜めてテントの中から外を伺っていると、遠くのほうで戦っているような音が聞こえてきた。最初のうちは統率の取れた掛け声が聞こえていたけれど、それは徐々にバラバラになっていく。乱戦になっているようだった。そしてその戦場が、だんだんキャンプに近づいて来ているようにも思える。
「やっぱりイクサルのウルフ集団のようね。毎回どこからあれだけのウルフを連れてきているんだか」
 戦場から聞こえてくるのはウルフの鳴き声だ。ドラゴンヘッドの兵の悲鳴は聞こえてこない。むしろ勇ましいほどの大声は、ミルドスルス隊長の声色だった。
「大丈夫、今キャンプ内に残っている兵は局地防衛のエキスパートばかりだから。ドラゴンヘッドは絶対に陥ちないのよ」
「でも、ちょっと数が多すぎるのよね」
「シドニア」
 キャンプの裏手からシドニアさんが戻ってきた。表情に疲労の色が見える。夕食後に話をしていたときはすごく知的でクールな印象を受けていたけれど、今は息も切らしているし、この戦いが厳しい状況だということがよく判る。
「MP切れただけだから大丈夫。ちょっと数が多くて陣が押され気味だけど、敵のレベルはたいしたことがない。MP回復したら戻るわ」
 彼女は少しの間しゃがみ込んで呼吸を整えていた。その間にわたしはプロテスとストンスキンを彼女にかけ直す。それに気づいて、彼女はわたしを見てニコリと笑った。
「本当はMP切れたら武器を剣に変えようと思ったんだけどね。厄介なことに」
「うん?」
 シドニアさんが呼吸を整えながら、言葉を続ける。
「隊長が、斧を持ちだしてしまったのよ」
「… げ」
 その時の、何かマズイことを知ってしまった時のようなカナゴの表情が印象的だった。
 常に冷静沈着に思えるミルドスルス隊長だけれども、敵に対しての憎悪は異常に強く、何かの拍子でキレると斧を持ちだして見境なく振り回してしまうことがあるらしい。元々斧術の師範代としての実力を持つ彼女だったが、我を失うと常にフルスイングしっぱなしという迷惑千万な状態になってしまい、過去の戦闘ではドラゴンヘッドを壊滅に近い状況まで追い込んだこともあるとクラウディエン師が話してくれた。
 ただ、そういう状態になるのを抑えるために剣術を始め、今では剣術師範どころか、その実力でドラゴンヘッドの隊長を任されるまでになったというのだから、どれだけ凄い人なのか、話を聞いているだけで判る。
 そんな人が今、ゼーメル要塞で手に入れたというレア武器のカノープスビルをブンブン振り回して、ドラゴンヘッドのバリケードのすぐ外で大暴れしているのだ。
「ウルフを操っていたウルフテイマーにお尻撫でられたらしいのよ」
 それを聞いてカナゴが頭を抱えてしゃがみこんだ。キレた理由はまさかそんなことかと呆れ果ててため息を付いている。
「なんだそりゃ… 止められなかったのかぁ?」
「どうやって? ヨクモハズカシメヲーとかユルサンゾーとか叫んでたのよ?」
「いやいや、止めるのはウルフテイマーの方さ。隊長はああなったらもうプゴット並みに凶悪なモンスターだぞ?」
 カナゴが顎で差したその方角に、隊長の姿が見えた。圧倒的な攻撃力の前に、ウルフの群れがバリケードごとなぎ倒されていく。あのバリケードはかなり太い木材で頑丈に組んであったはずだ。ウルフの断末魔と基地が壊れていくベキバキという音と隊長の訳の判らない叫び声がこだまする。ウルフだけではなく、ドラゴンヘッドの屈強な兵たちまでも隊長から逃げ惑っていた。ありえない光景を見ているような気がする…
「阿鼻叫喚ってこういうことを言うのかしらね。とにかく事の収拾はウルフ全滅しかなさそうだわ。私は右を見るからカナゴ反対お願い」
「オッケー」
 ウルフの何頭かがテントに気づいて向かってきた。シドニアさんとカナゴが応戦を始めると更に数頭がリンクしたようで、群れに加わってきた。ざっと数えると7頭くらいいそうだ。近くにいたルガディン兵が加勢してくれて、目の前で乱戦が始まった。
 テントの入口から外の様子を見ていたけれど、皆のストンスキンが切れていたようで、コッソリとテントを出て小声で詠唱してかけ直した。すると、1匹のウルフがわたしに気づいてしまったようで、飛び跳ねながら向かってきた。
「ストーン!」
 反射的に立ち上がって魔法を放つ。ストーンはうまく命中し、ウルフは怯んだように見えた。しかし決定的なダメージは与えられておらず、完全にヘイトを取ってしまったようだ。
「ミントン、コンボを撃ちなさい! 詠唱は、ラ!」
 シドニアさんの声が聞こえた。詠唱ラ。それは―
 小さな声で初めての詠唱をする。以前グリダニアの元老院で教えてもらった上位魔法のスペルだ。全身の血が逆流するような感触と共に、ものすごい量の土属性エーテルがわたしの周りに発生して渦を巻いた。全身の毛が逆立つ。魔法力が一気に吸い取られた感じがする。テントの入口がバサバサと音を立ててたなびいていた。
 キッとウルフを睨みつけながら、エーテルがわたしに従うのを待った。倒すべきは、あのウルフ。
「… ストンラー!!」
 わたしの号令でエーテルはウルフに向かって行く。ウルフは弾き飛ばされるように中を舞った。
「上出来だ!」
 飛ばされていくウルフに向かってカナゴがバネの効いたジャンプで追撃し、そして強烈な拳撃を見舞った。ありえない形に体を捻られながら、ウルフは更に遠くに吹き飛ばされていった。
「… あ」
 全身の力が抜け、その場に思わず座り込んでしまった。息が苦しく、呼吸が乱れる。心臓の動悸が早く、体中の血液がグルグルと廻っているのが判るようだ。MPが尽きるというのは、こういうことだろうか。
「本当に上出来よ」
 残りのウルフを一掃したシドニアさんがやってきて、わたしの横に膝をついて座る。
 周りを見回すと、ウルフはほぼ倒しきったようだった。遠くの方で、1、2頭ほど逃げていくのが見えたが、あれはもう追いつけなさそうだった。
「だいたい片付いたかな」
 カナゴも戻ってくる。やれやれといった表情だった。
 … と。
「ミントン! 大丈夫かあああああ!!!」
 遠くの方から隊長の大声が聞こえてきた。見ると、まだ大斧を振り回しながらこっちに向かって走ってきていた。
「… おい、一番厄介なのが残ってるぞ」
「わたし無理よ。ミントンお願い」


第6話:強くあれ につづく。



タグ [裁縫師ミントンの冒険]




Lodestoneコメント

そういえばドラゴンヘッドってイシュガルドとナタラン入植地の間にある
正に最前線なのでしたね、緊迫した空気が伝わってくるようでした。
実際のドラゴンヘッドでもそういう体験をしてみたいですね~
Cocoa Sabure (Aegis)2012年03月03日 03:19
ほおおお、アレはこんな画像になったのか
私、二週間も留守にしてたっけ?w
イメージ的にはそうかもなぁ・・
Aruhya Popo (Aegis)2012年03月03日 08:02
すごい、魔法の戦闘ってこうなってるのか…と本気で思いました!
でもちょっと笑い要素もあって面白かった!
ドラゴンヘッドに行く度に、プゴットのように暴れる隊長を思い出して笑ってしまいそうなw
Chinju Daichi (Aegis)2012年03月03日 09:26
一転してすごい緊迫感ですね!
まだギリギリの冒険をしていた時に、鳥に絡まれてちょっと困ったときの事を思い出しました。
Rubinia Acacia (Aegis)2012年03月03日 09:33
隊長のキャラがツボですww 生粋の戦士って感じがw
Nao Swing (Aegis)2012年03月03日 09:45
あまり描かれることのない魔法戦の描写がいいですね!
ワタシ、魔法を唱えたりするようなファンタジーものの小説を読むことが少ないので表現が思い浮かばないのですよね。
だから、いつも戦闘シーンの描写を避けて書いてるですのw
文章での描写って難しいのに、Mintonさまの話はどれも凄く伝わりやすいなって思いました♪
Lico Rice (Aegis)2012年03月03日 16:39
>ココアさん 
そうですね。ドラゴンヘッドだけは、他と違って軍事拠点という感じが、ナタラン実装前からしていました。おそらくNPCの雰囲気からだったかと思いますが、なんとかその雰囲気を表現出来たのかなー

>あるひゃん 
ホントは詠唱中の写真でも良かったんだけどね、コレが一番うまく撮れていたので。
今どこにいるのかを聞くと毎回「クルザス」って返答が来た頃があったよねw

>ダイチさん 
幻術は大気中のエーテルに属性を与えて攻撃する、という公式設定に手を加えてみましたw 隊長は最初あんなキャラじゃなくてもっとカタブツだったのですが、加筆修正をしているうちにだんだんと・・・w

>るびにあさん 
よくよく考えればプロテスストスキとストーンコンボ1回しかしてませんけどね、この主人公w わたしも幻術でだいぶ苦労しましたので、その時のことを思い出して書きましたw

>なおさん 
普段は厳格でカタブツなんですけど、本当は・・・というギャップで隊長萌えw

>リコさん 
わたしもあまりファンタジー小説って読まないので、正直エーテルなんて言葉を使ったのもコレが初めてですw 描写のしやすさは、元のゲーム(土台)が判りやすいからじゃないかなと思います。

Minton Royaldoulton (Aegis)2012年03月03日 21:01
相変わらずの表現のうまさで読み入ってしまうw
次がもうアップされてるのでいってきまーすw
Ham Croma (Aegis)2012年03月04日 01:35
文章、描写がわかり易くて私の頭でも脳内再生バッチリですw
ミントンさんがストンラかけるところ好きです。^^
隊長怖い。。。ww さて、お話にどっぷリつかりに行こか~((((*^-^)
Lir Akane (Aegis)2012年03月05日 12:43
>ハムさん 
スイマセンコメント前後しましたw 長々とお付き合いいただき感謝ですー

>りあさん 
魔法詠唱のシーンはもうちょっとカッコよくというかいろいろな手法を入れたかったのですが、字数制限の関係で結構端折っちゃいました。
隊長のウケがいいようでよかったよかったw
Minton Royaldoulton (Aegis)2012年03月05日 13:44
戦闘の描写の細かさに引き込まれ、緊迫感ののち
お尻を触られてキレたミルドスルス隊長に萌えましたw
マルドティがすごくすごく美味しそうです
たとえ毒入りでも飲んでみたいっ(*´ω`*)
Rutile Fourleaf (Aegis)2012年03月05日 14:36
>ルチルさん 
戦闘シーンは皆さん実戦経験があると思いますので、もうちょっと細かく書きたかったのですが、字数制限の問題があってかなり割愛しました。
お話の中に出てくるマルドティは毒は入っていませんw
Minton Royaldoulton (Aegis)2012年03月05日 21:27
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