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2012
03.01

裁縫師ミントンの冒険 第3話:クルザスの亜麻

【前のお話】
第1話:気分が良かったから
第2話:高原の国


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 キャンプ・エバーレイクスからキャンプ・ドラゴンヘッドまではまっすぐ北に進めばいいだけの簡単な道のりだとフィルミアン隊長は教えてくれたけれど、それは絶対嘘だ。なぜなら今目の前に見たことがない大きな豚と蝿のようなモンスターが3匹もいて、わたしの行く手を遮っているからだ。あれのどこが簡単な道のりなのだと、キャンプまで引き返して隊長に文句を言うとジャッキヤが大笑いをした。モードゥナを抜けてきたのにあそこを抜けられないのは如何なものかということらしいけれど、 ただの一度も戦闘をせずにモンスターに気付かれないように走り抜けてきたのだから、あんな狭い谷の底を通る道をいかにもアクティブっぽいモンスターが塞いでいたのではわたしは為す術がない。幻術士だって攻撃魔法は使えるけれど、わたしが相手にできるのはせいぜいドードーくらいなもの。あんなわたしの背丈ほどもある巨大な蠅なんか、見るのも嫌だ。
「では退治しに行きましょう。夕べ美味しいお茶を淹れていただいたお礼もしたいですしね」
 ジャッキヤはそう言って杖を取った。彼女はソーサラーが本職と言っていた。最近はもっぱら立ち寄る冒険者にケアルをかけてやることくらいしかしないそうだけれど、幻術をちょっとだけしかかじっていないわたしが見ても判る、その杖は最高レベルのソーサラーじゃないとまず扱えない高級杖だ。
「豚はホッグか。大きな蠅といえばナットの仲間だろうな。ザナラーンにもいるだろう? 何にせよジャッキヤに任せておけば安心だから、谷を抜けるまで彼女に護衛してもらうといい」
 ホーバージョンとチェーンコイフに身を包んだ隊長が留守番で、サンシルクでも見たことがないブリオーのジャッキヤが護衛役。逆だろうと思うのだけれど、飛行系の敵に飛び道具がない隊長が向かっていっても何も出来ないから、と彼女は笑った。

「ウルダハで裁縫をやっているということは、サンシルク所属でしょう?」
 同時に2体のナットにファイヤの魔法を浴びせながら、彼女はそう聞いてきた。わたしは少し離れたところの木の影から戦況を見守りつつ首をコクコクと縦に振る。
 サンシルク所属とは言っても、わたしは冒険者枠での外注者登録だけで、正規所属の職人とは違う。ギルドのリンクパールはもらっているけれど、自分のデザインしたものをサンシルクブランドとして売ってもらえるわけではないのだ。サンシルクの裁縫師と言うと報酬が上がったりするのでそう名乗っているだけで、実際はただの流れ者だ。だから仕事以外のところでサンシルク所属を名乗るのにはちょっと抵抗があった。
 彼女の魔法は強大だった。ありえないくらい強い。しかも目標を片目で見つつ、わたしと雑談しながら放つのだ。クイックサンドに出入りしているソーサラーでここまで強い者はいるだろうか。会話からはちょっとおっとりしている雰囲気があるというのに。
 たった2発の魔法で、2匹のナットは黒焦げになって地に落ちた。そして、それを目の当たりにしたホッグは一目散にどこかに逃げて行ってしまった。
「このブリオーはイシュガルドの服屋で見つけたものですが、サンシルクからの仕入れ品だそうですの。こちらでもサンシルクのクオリティの高さは評判ですから」
 彼女は真っ黒な塊になって動かなくなったナットを杖や足でつついて安全を確認すると、わたしを呼び寄せた。もう安心だ。
「でも、ウルダハにはそのブリオーは出回っていないわ。多分特注品だと思う。帰ったら聞いてみるよ」
 初めて見た時から気になっていた、ジャッキヤのブリオー。地はウールでもフェルトでもなかった。色もデザインもシンプルで、普通はオシャレ着の色合いが濃いブリオーだけれども、このブリオーは戦闘で使うことを相当考慮しているようにも思える。きっと戦場を経験している誰かのオリジナルだろう。そうすると型紙を描いたのは…
「戦闘に耐えられるだけの能力も持っていないとキャンプで着られませんし。お洒落な装備も探すのが大変ですわ。もっとも、気かけてくれる方はほとんどいませんけど」
 彼女はそう笑ったけれど、訪れるであろう冒険者にとって彼女は最高の癒しかもしれないと思う。媚びることはしないタイプだと思うけれど、やはりそういう役割があると判っているからだろう。彼女の装備品は細かなところまでセンスがいい。
「さあ、谷を抜けましたわね。申し訳ありませんが護衛はここまでです。ここから少し先に進めば街道に出ますから、北に進めばキャンプ・ドラゴンヘッドが見えてくるはずですわ」
 空は相変わらずの快晴だった。流れる雲の白さと降り注ぐ陽の光は、懐かしいラノシアの空に似ている。わたしと同じリンクシェルを持つギャザラーのアルヒャが、以前クルザスでの草刈りは気持ちがいいと言っていたのを思い出してなるほどなと思った。今日もいい天気だ。
「ドラゴンヘッドに着いたら、貴女に助けられたことを隊長に伝えておくわ」
「ありがとう。では酒保をやってるカナゴというミコッテにもよろしくお伝え下さいな。お友達ですのよ」
「わかった。伝えておくわ。ここまでありがとう」
「気をつけて。今度はひとりじゃなくてお友達も一緒ね。キャンプで歓迎しますよ」
「うん、今度はみんなと来るよ」
 別れの挨拶は軽く手を振りニコリと笑う。生まれ育ったサンシーカーの村で教わった、ミコッテ式のエモートをふたりで向きあってやって、わたしたちは互いに背を向けた。
 さあ、いよいよイシュガルドだ。

 ジャッキヤに教えられたルートをたどって丘を下ると、それなりに整地された街道に出た。ここを北に進むとキャンプ・ドラゴンヘッドがあり、その先にイシュガルドのお城があるという。南に行くとグリダニアに繋がるそうだ。
 道の所どころからスクウィレルが顔を出してこちらを見ている。目を合わても逃げたりしないので、初めて見るよそ者のわたしに興味津々といったところか。逆に言えば相当レベルが高いということだ。怒らせないように気を付けないと。
 周りに注意しつつ街道の真ん中を歩いていると、微かに伐採ポイントの気配がした。グレードはいくつだろうか。カバンから折りたたみのハチェットを取り出して気を張ると、なんとか伐採出来そうな木を見つけることが出来た。
 ハチェットの刃先で軽く切り口を付けてみる。見た感じはどうもオークの木のようだったが、今主戦場にしている西ザナラーン周辺に生えているオークの木とは少し様子が違うような気がする。幹自体が硬いし、樹皮も肉厚のようだ。元々どっしりとした雄大な容姿を持つ樹木だけれども、この辺りの樹木はザナラーンよりも太く高い気がする。
 切り口に向かって勢い良くハチェットを振り下ろすと、ガツッという鈍い音がして刃が幹にめり込んだ。想像以上に硬い幹だった。何度か同じ場所を切りつけたけれど、ハチェットが弾き返されるような強い抵抗を把手から感じ、これ以上続けると器具自体が壊れてしまうような気がして手を止めた。
 少し先に目をやると草刈り場の気配があった。近寄ってみると、いろんな草花と一緒に亜麻が自生していた。これもオークの木のように力強い。伸ばす弦の太さが今まで刈ってきたものの倍はあるように見て取れた。折りたたみ式のサイズを展開して振ってみるも、あざ笑うかのように空振りする。弦が刃に触れている感覚はあるものの、逃げるようにスルリと抜けていく。刈り取っている気配が全くなかった。
 ただ、一度の空振りで草刈り場の気配は消えなかった。少なくとももう1回チャンスがあるということだ。深呼吸をして心を落ち着かせ、目をつぶって邪念を払う。上位グレードの伐採場では欲を張らず無心で鎌を振れって言ったのは誰だったか… 吹いていたそよ風が止んだ瞬間にサイズを振った。
 ― ザシュッ。
 亜麻の弦と花がいくつか宙を舞った。振ったサイズの柄からゾクゾクッと強烈な手応えが伝わってきて、思わず全身の毛を逆立ててしまった。そしてその瞬間、周辺から草刈り場の気配は消えた。
 わたしはサイズをたたんでカバンに仕舞い、まだかすかに残っている手応えを確認するかのように手のひらを見た。こんな感覚はラノシアで初めて草を刈った日以来かもしれない。冒険者なんだから裁縫で使うモコ草くらい刈れるようになりなさいと、半ば強制的にサイズを渡されてグレード1の草刈り場に連れて行かれたあの日も、こんないい天気だった。
 あの日、ザクザク刈れるモコ草はわたしに採集の楽しさと自然の力強さを教えてくれたけれど、今このクルザスは、わたしはまだまだだということを徘徊するモンスターや草を食む動物たち、そして根を張る植物たちを通じて教えてくれている気がした。冒険者としての力の無さをクルザスの自然が語ってくれているのだ。
 でも、その壁の高さがどのくらいなのか全く判らないわけでもない。今のわたしが登りきれる程度の楽な壁ではないけれど、きっともう少しがんばって力を付けたならば、きっとここでも充分に活躍が出来る手応えはあった。それの証拠に、今わたしの手元には、自力で手に入れたクルザスの亜麻がある。
 わたしは弱い。でも、わたしでも強くなれるかもしれない。
 そんな今までに湧き上がったことがない感情が、初めて心の中に生まれた。

 キャンプ・ドラゴンヘッドに辿り着いたのは、陽もだいぶ傾いた夕暮れのことだった。


第4話:修繕とは へつづく。



タグ [裁縫師ミントンの冒険]




Lodestoneコメント

ワタシもサブキャラ(lv8)で逆側のグリダニアからモードゥナに向かったコトがあるけど、時間にも追われていて景色を楽しむ余裕はなかったですのw
実話(?)を元に書いてるみたいですが、よく覚えてますね!
感心しちゃう(*´∀`*)
晴れたクルザス・・・行きたくなったw
Lico Rice (Aegis)2012年03月01日 00:19
晴れのクルザスは綺麗ですよね~
最初に行った時はモンスターを避けるのに精一杯だったし
その後も目的地までは駆け抜けてしまうので
あまりじっくり見ていないかもですね
今度またクルザスに行ってみたくなりました(≧▽≦)
Cocoa Sabure (Aegis)2012年03月01日 00:55
最後、それの証拠にからの3行がいいなぁw 途中の描写ももちろんいいのですが、主人公の成長が見れる物語はいつ読んでもわくわくしますw
Nao Swing (Aegis)2012年03月01日 01:07
自分もクルザスにいるような感覚に・・・
今回も楽しませていただきましたヽ(*´∀`)ノ
亜麻から糸を紡いで・・・次回も楽しみですw
Ham Croma (Aegis)2012年03月01日 01:59
何と言うか…冒険の初心と言う大切な事を思い出させてくれる文章だね。
凄く小さな事かもしれない一つ一つを拾っていく所は、何だかみんとんさんらしいな、と思えてほっこりします。
自分も初心を忘れずにいようw
そして誰か他のキャラクターを登場させず、見事にNPCに命を吹き込んでるなと感心!
自分もこの物語に登場してみたくなるけど、NPCたちの生き生きとした動きとみんとんさんとのやり取りだからいいんだろうなーとw
Chinju Daichi (Aegis)2012年03月01日 03:12
クルザスの草刈りは本当に気持ちがいいんだ
ついつい鼻歌が出ちゃうくらいにね
この物語を読むと血眼になってダイアーモスを刈りまくった日々を思い出すんだ・・(ー`)
一箇所で一回しか刈れないのに一日中クルザスを走り回っていたっけ
おかげで懐ポッカポカw
Aruhya Popo (Aegis)2012年03月01日 08:35
戦うだけが冒険じゃないですねん
エーテで立ち止まる、草を刈る、ハチェットを打ち込んでみる
ちょっとしたことも噛みしめて味わって楽しんで
そうすれば無限に世界は広がるのですよね

「修繕とは」の副題から、どんな物語が紡がれるのか
とても楽しみですw
Rutile Fourleaf (Aegis)2012年03月01日 09:17
クルザスでギャザる!
そこには様々な思いが(^ω^)
遠くても行きたくなる場所ですね(色々な意味でw)
Rubinia Acacia (Aegis)2012年03月01日 20:02
コメント・いいねを頂いた皆様、ありがとうございます!
ものすごく励みになってます。
最近ログインが少ないのも、実はギリギリまで加筆修正を行なっているからですw

>リコさん 
元々クルザスってどんなトコ、が目的で出掛けたのをお話風にブログ記事にしようと思ったのがキッカケだったので、周りを見回しつつ移動していましたね~
もちろん今回のお話に仕上げるべくロケハン10回くらいしていますw

>ココアさん 
晴れのクルザスって綺麗で絶景ですよね~。わたしも最初はあそこにいるmobすべてが強敵だったので、なかなかじっくり見ることは少なかったのですが、今は多少何とかw
クルザス啓蒙小説として意味を成してきたかしら!w

>なおさん 
今回のお話のキモはその3行に尽きますw ええ、クルザスは高レベルなイメージだけど、ちょっと頑張ればなんとか手が届きそうな、絶妙な難易度なんですね。成長を図るバロメーターとして優秀な土地ですヨ!

>ハムさん 
あの亜麻を手に入れたときはちょっと感動しました。実は初亜麻だったのですが、当時はその後何に使うのか全く判らず・・・w

>ダイチさん 
そうです。冒険の道中に落ちているイベントひとつひとつは小さいものですが、それは全てどこかで繋がっていて、紡ぎ合わせると壮大なストーリィになるんです。
誰か他のキャラクターは、今のところ名前だけあるひゃんが登場していますが、やはりNPCが自分の観点で動かしやすいですね~

>あるひゃん 
今回の話のキッカケを作ったのもアナタですし、「上位グレードの伐採場では欲を張らず無心で鎌を振れって言ったのは」アナタですが、懐具合かいwww欲を張らずwww

>るてぃるさん
そうですね、戦うだけが冒険じゃないんです。どんな小さな事でも、気になったらトコトン追ってみる、それが冒険じゃないかなあと思うのですよね。
次回の話は、今回の話のキモとなる章です。乞うご期待w

>るびにあさん 
クルザスはギャザりがいのある土地だと思いますよ~。遠いですが、そこに行く行程もまた楽しかったり。テレポ? 使いませんよ、徒歩です!(よく転がりますが)
Minton Royaldoulton (Aegis)2012年03月01日 20:16
ジャッキヤさんがとっても、かっこいいです^^

クルザスでまだ採集したことないのですが、その情景が伝わってきましたよ~♪
Fii Karmaikel (Aegis)2012年03月02日 20:07
>ふぃーさん 
NPCジャッキヤの本物ですからね。キピとか色々亜種がいますが、わたしは彼女がお気に入りです。
クルザスでの草刈りはほんとに気持ちいのでゼヒw
Minton Royaldoulton (Aegis)2012年03月03日 00:08
NPCの描写、風景の描写とても「いいね!」です^^
続きをよみにいこ~((((*^-^)
Lir Akane (Aegis)2012年03月03日 19:50
>りるさん 
感想ありがとうございます~。ハエを焼いてもらって亜麻を刈っただけの章ですが、表現は苦労しましたw
Minton Royaldoulton (Aegis)2012年03月03日 20:42
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